決意の最終楽章感想~南中カルテット~

最終楽章の出番は少しでもあれば御の字かなと思っていた南中カルテット。予想よりガッツリあって驚きました。武田先生もこの4人のこと大好きですね?

さてさて、第二楽章~ホントの話までで一番気になっていたのは優子と希美の関係性でした。優子はみぞれを大事にしているけど希美の辛さを考えてはいるのだろうか、希美と優子の間はギクシャクしたものがあったりするんだろうかという心配です。その答えをまさか最終楽章でいただけるとは。以下後者部分に対しての引用を。

「アンタら二人が仲いいのはわかったから、さっさと会場に向かおうや」
「仲良しやってさ」
希美ってばすぐ意地悪言う
(最終楽章後編p.80)

ここの会話の順序、希→夏→優ですよね*1。完全に気の置けない友人同士のやり取り。優子がちょっと拗ねてるところとか今まで全く見られなかった一面で凄く新鮮*2台詞1つで普段の優子と希美の関係を絶妙に示す、とても上手いなあと。もしも優子が希美に一方的に言うだけの間柄なら寂しいと思っていただけに、お互い突っ込みあえる関係であること、こういうやり取りが良くあることを教えてくれたのは嬉しいです。

それにしても久石奏クン*3は含蓄ある言葉を投げかけてくれます。双方向でない関係は脆いですからね。そしてぶつかるべきときにぶつかることを避けていたら問題は解決しません*4

「衝突の許されない関係はいびつですよ」
(久石奏、最終楽章後編p.199)

吉川優子

優子は希美に厳しい印象があると思います。しかし良く見ると直接的に希美に怒ったのは高2の復帰騒動のときだけ。高3の第二楽章ではみぞれのみに肩入れすることはせず、希美を責めることもありません。また、ホントの話でやや冷淡な場面があるものの、最終楽章では希美に対して当たりが強いどころか過保護とも言える行動が発現。さてさてどういうことだ。
あまり単純化しすぎるのは良くないかもしれませんが個人的感覚だと優子はかなりの任侠人間。まず入部当時、荒れ果てた吹部から守ってくれたのが中世古香織先輩。この恩義に全力で報いたい。だからこそ新入り麗奈が礼儀知らずに場を荒らすのが許せなかった。しかし最後には麗奈が香織の立場を理解し詫びを入れたことで手打ちに。こうなれば後腐れもわだかまりもなし。ギクシャク期間を乗り越えた後はむしろ頼れる妹分として受け入れます。

「…あのときは、生意気言ってすみませんでした」
 (高坂麗奈、1巻p.298)

そして次に来たのが希美復帰騒動。優子は希美とみぞれ双方の事情を知っている数少ない人間。しかし、意図しない両者の接触が起こるまで、みぞれの誤解を解き間を取り持つような積極的行動を起こしませんでした。また、胸倉をつかみ上げるくらいに希美へ厳しい目を向けています。これはみぞれへの保護意識だけでなく、部を抜けた希美よりも今の吹部に仲間意識の天秤が傾いていたことも大きかったのではないかと思います。

様々な問題、そして京都府大会金賞を経てついにまとまった北宇治吹部そこに余計な波風は立てられたくない。守ると認識した対象を全力で守るという優子の行動理念からすると、希美に対する優先順位が下がっていたのは仕方ないとも。ソロ騒動のときの守りたいものは香織先輩、復帰騒動のときはみぞれ。それを脅かすと認識した存在には真っ向から対立します。

これとは対照的に部長時代の優子は希美を一方的に責める行動をしません。守るべきみぞれが再び希美のことで困っているにもかかわらず、です。何故かと考えると、やはりこれは優子が部長だからが大きいと思います。部長となった優子は吹奏楽部全体の統率者。守るべき相手は部員全員であり、その中には必然的に希美も含まれる

ここは原作とリズで大きく異なるところで、リズでは希美にきつく当たっています。リズという独立映画においては、優子は部長の役目よりもみぞれを大切に思っている友人の側面を強調されたとも言えそうです。

うちはこの一年、ずっと部長でした。起きてから寝るまで、ずっと北宇治高校吹奏楽部の部長。もうね、切り替えのスイッチがぶっ壊れてたよ(吉川優子、短編2巻p.296)

異論があろうとも譲らず優子を部長に指名したのはあすか。優子の任侠発揮範囲が一部に限定されている場合には優子はそれを守るために他と、部長とも対立することも厭わないでしょう。しかし部長に就けて吹部全体を対象とさせてしまえば全力で部に尽くす理想的な部長となる。この優子の特性を把握した采配、流石はあすか先輩ですね。

だってさぁ、あの子は部長以外やれないでしょ
「どういう意味?」
「そのままの意味。よくも悪くもカリスマ性がありすぎんねんなぁ、あの子。トップ以外の場所に立つと、支持を集めすぎてトップが機能しいひんくなる。ひと言でまとめると、部活クラッシャーってこと。本人は無自覚やろうけど」
優子ちゃんは優しい子だと思う
(短編2巻p.98)

優しい子と書いて優子。一見直情的で攻撃的ですが全ては守りたい相手のため。他人のために真剣に怒ることができる優子はユーフォ中でも屈指の優しさを持つ人間。その美点を最大限に生かせる場所さえ与えてやれば誰にも負けない輝きを放ちます。

最終楽章で希美に対するおせっかいが発現したのは、みぞれの演奏と希美の様子から部長時代へ意識が巻き戻ったうえ、現在の優子にとって希美も全力で守りたい相手の1人だということが大きそうです。一方、ホントの話で少し冷淡だったのは受験中のみぞれを誘う無神経さと、みぞれへの保護精神から反射的に思わずなのかなと。実際にはみぞれのためにあえて誘っていたことが判明し、希美の想いを知ることに。

優子自身は無自覚かもしれませんが、部長の経験は今後の優子にとても大きな影響を与えたと思います。恐らく大学以降の優子は片方だけに肩入れしすぎたりはしない気が。言いたいことは言いつつもしっかり全体を見ることができる優れたリーダーとして成長していきそうです

「麗奈も優子先輩も変わったなって思いますよ。もちろん、いいほうに」(黄前久美子、最終楽章後編p.45)

上記が優子の変わったところだとすると、変わらないのは裏表のないところでしょうか。黒江真由には裏表をなくすことが習慣付いていると推測してみましたが、優子はそもそも裏表を作れないタイプ*5。この2人、絶妙にかみ合わなさそうなので出会ったらどうなるかを是非とも見てみたい。

あと、優子の特徴としては他人にめちゃくちゃ甘いこと。変われないことに悩んでいある相手に”無理に変わらなくてもいい”という選択肢を与えてしまう。特にみぞれ*6やコンクール前の夢へそれが出ていて、最終楽章で髪をくくるためのバレッタを希美に渡そうとしたのもこれだと思います。そのくせ自分が無理することは全く厭わない。

高音が得意なのにメンタルに問題がある夢の代わりに自分が1stへ。いくら部長でみんなを支える役目とはいえ代役ポジなんて得なことないです。結果が出なければ責められる可能性すらあるのに相手の無理を自分が背負ってしまう。はっきり言って優しすぎます。優子一人ならパンクしてしまい、それを背負わせた相手も罪悪感にさいなまれるかもしれません。また、変わらなくていいは場合によっては悪魔の囁きにも。

「善意が相手を助けるとは限らない。むしろ、追い詰めることだってある」(月永求、最終楽章後編p.258)

しかし優子は一人ではありません。キャパオーバー寸前で強引にでも止めてくれる副部長夏紀、スーパーマネージャーに転身した加部友恵。頼りになる仲間が優子の抱え込む無理を支えてくれます。特に加部ちゃん先輩の果たした役割は重要で、得てして置いてけぼりにされそうな初心者へのフォロー、部内トラブルの解消といった日常面全般を支えるだけでなく、最後の演説では全部員、特に3年生を奮わせます。

友恵は本気だった。本気で、あの日の北宇治の演奏を称賛していた。練習のあいだ、友恵は誰よりも近くで部員の演奏を聞いてきた。何度も繰り返されてきた、課題曲と自由曲。同じ音楽を延々と聞かされるのは、きっと苦痛であったに違いない。飽きたことも、うんざりしたこともあっただろう。それでも、友恵は明言した。あの演奏は、最高だったと
(第二楽章後編p.367)

私らはあの瞬間、間違いなく最高の演奏をした」というのは落ち込む部員たちへ優子が飛ばした檄。それが皆を再起させる切欠となったのは間違いありません。しかし優子と夏紀だけは部長副部長の矜持で自ら立ち上がるしかなかった。特に南中での府大会銀を引きずっていた過去を持つ優子は、この結果を受けて自分自身を奮い立たせるのにどれほどの精神力がいたことか。だからこそ混じりっけなしに最高の演奏だったという評価はなによりも欲しかった言葉であり、優子を救うものであったと思います

「なあ、結果が出えへんかったら、努力ってなかったことにされてしまうん? あのときのうちらの演奏、ほんまに他の金賞の学校より劣ってた?」(吉川優子、2巻p.215)

夢へのものも含めて加部ちゃんの演説は完全に第二楽章のクライマックスで、読む返すたびに感情が湧きたつんですよね。久美子2年編を誓いのフィナーレだけでなくTVアニメでも見たいという要望が多いのは、加部ちゃん先輩という素晴らしいキャラクターを埋没させてしまうのはあまりにも勿体ないという思いも多分にあるでしょう。

なんだか最終楽章の優子どころか加部ちゃん大好き話をしてしまいましたが北宇治3代でどの時代に所属したいかと言われると私なら間違いなく優子部長世代*7この代で全国に行けなかったのは本当に悔しい!

 

傘木希美

最終楽章は完全に久美子視点なので希美の心情については与えられていません。その久美子の感じたものもおぼろげな表現にとどまっており、読者側がどう読み取るかに任されています。もしかすると武田先生の中でも固まっていない、現在進行形で移ろいゆく瞬間をチラ見せしてくれただけなのかも。

まず高校時代と一番変わった点は容姿。ポニーテールから微かに波打つロングヘアへと、卒業式の朝に考えていたことを実行。これは変わりたいという希美の意志ですがそもそもなにから変わりたいのかについてすらはっきりと示されていない。なのでここからは徹頭徹尾憶測。

手持ちのカード

特に難しく考えなくてもステージの変化に合わせて自らも変わろうとするのはごく自然なこと。ただ、希美には変わりたいと思う気持ちが普通以上にあったのも事実だと思います。それが何故かなと考えるとやはり自由曲リズと青い鳥における醜態を晒すような自分には戻るまいという表れでしょうか*8。そして、どう変わってどうありたいかの試行錯誤の真っ只中が最終楽章の状況だと。

高校までの希美は手持ちの最強カードが音楽と認識していて、自分の価値=演奏とすら考えていたかもしれません*9。しかし希美信者のみぞれにそれを打ち砕かれる。才能の壁にぶつかるのは一握りの天才でもない限り必ず訪れる問題ですが、希美の場合は相手が相手なだけに辛いものとなりました。音楽に対する苦い感情の払拭にはしばらく時間が必要で、ホントの話、最終楽章でも完全な克服には至っていない描写が見られます。

真剣なトーンに、希美は照れ笑いを引っ込めた。組んだ脚をぎゅうと締めつけながら、希美はなんでもないふうを装い尋ねる(短編2巻p.139)

うなずく希美の唇から白い歯がちらりとのぞく。はにかむような笑みには照れと苦さがにじんでいた(最終楽章後編p.79)

その希美の変化お試し第1弾が新山聡美的ファッション。ここは裏があると取ることもできるんですけどあまり深読みしすぎなくていいのかなとも。指針なく変わるのは難しいので、一番身近にいる魅力的な大人を真似ることから始めてみただけかもしれません。また、試行錯誤の段階における模倣は決して悪いことではなく、むしろ新しいことに取り組むときには模倣から始めるのが定跡。一度疑いの目を向けているからこそ希美の新山先生への信頼はかなりのものがあると思うんですよね

この変わりたいという想い、あくまでも新しい自分になるための前向きな選択と感じます。みぞれの演奏後、昔を懐かしむ希美に優子がバレッタを渡そうとしたのは「苦しんでまで変わる必要はないんじゃない?」という優しさだと思うので*10、もしも妥協や逃げの選択であったならその誘惑には逆らえない。そして夏紀が「おせっかい」とつぶやいたのは優子の思いやりに対してだけでなく、希美が前向きに進んでいることを知っているからではないでしょうか*11

ためらいがちに伸ばされた希美の手が、バレッタに触れる直前、弾かれたように後ろに下がった。はっきりと意志を感じさせる動きで、希美は首を横に振る。
「いいよ。私はこのままで」
「本当に?」
うん、これがいまの私だしね
(最終楽章後編p.84)

これから先の希美については今後の短編集に乞うご期待。最終楽章で苦さを内包しているために心配する面もありますが、個人的には大丈夫だろうという思いが強いです。ここは希美の基準をどこに置くかで異なり、私の場合は『真昼のイルミネーション』

本編中の希美はあくまで北宇治吹部中の希美&みぞれとの問題があるときのみ久美子視点に浮上してきます。なのでどうしてもしんどい面が強調されがちですがそれは希美の一部分。一方で普段示しているはずの本来の姿、自然体を描写されているのが『真昼』。ここでの夏紀との会話から、抱えている悩みに対して既に希美自身の中に答えを持っているように見えるのです

「これやりたい!って決めて大学入る子はレアやと思うけどね。むしろ、それを探しに大学行くんとちゃう?」
「たった四年で何か見つかる?」
「見つかる人は見つかるやろうし、見つからんかった人は『見つからない』ってことが見つかる」
(短編2巻p.138-139)

「でも、なんだかんだ大丈夫だよ。もし自分の選択に後悔しても、その時は引き返してまたやり直せばいいだけだし」
(短編2巻p.145-146)

この試行錯誤において自分の手札が音楽以外にも沢山あることにいつか気付くはず*12。みぞれや夏紀から憧れられるくらいのものを元々持っているんですから。自身への評価が音楽一辺倒だったのに対し、夏紀と良い関係を築いているように他人をその物差しでは計っていない。なので自分を客観的に眺める作業をすれば自己を再認識し、やりたいなにかを見出すこともきっと出来るでしょう。例えその結果が再び音楽になったとしても、気の持ちようは全く違っていると思います

希美が希美としてはばたくための助走期間。一体どういう結論を出すのか、それを見ることは出来るのか。これはもう武田先生の筆の乗りにお任せするしかないですね。
 

希美と音楽

最終楽章における希美と音楽の関わりで一番嬉しかったのはここです。高校最初で最後のコンクール、全国への想いは誰よりも強いはずなのに全国行くぞや勝ち負けじゃなくて、最高の演奏をしようとしてるんですよ*13

去年の関西大会のことは、久美子だって鮮明に覚えている。常に理想の部長であった優子のことも、頑張ろうと笑いかけてくれた夏紀のことも、最高の演奏をしようと息巻いていたみぞれと希美のことも、何もかも(最終楽章後編p.217)

また、高2での久美子との会話からも結果がどうであれまずは自分たちが納得できるかどうかを重視していることが分かります*14。このような姿勢についても分かりやすく説明されているのが『真昼』。これを読んでから希美の言動を見直すと改めて納得することが多くて、だからこそ自分の中での希美の基準はここに置きたいなと思っています。とにもかくにも『真昼のイルミネーション』は傘木希美(および中川夏紀)好きには最高の短編なので、読んでない方は今すぐにでも手に取ってください!

刃を研いで美しい切っ先を作り上げるように、よりよいものを求めて何度も地味な改善を繰り返す。練習は退屈だし、派手さもない。でも、神様の気まぐれみたいなひととき、たった一回の本番にしびれるような快感と興奮が現れることがある。希美はその瞬間がたまらなく好きだ(短編2巻p.140)

全力こそが最高に楽しい。それを知っているだけに梨香子先生の「楽しく吹くのがいちばんよ」はあまりにも空虚で許せなかったのでしょう。希美のフルートは楽しくて美しい、澄んだ音色。みぞれのオーボエは楽しい! の感情爆発*15南中の顧問は音楽の楽しさを教えるのが得意だったのかもしれませんね*16。希美の南中時代や退部後の元南中たちの短編、是非とも読みたい。

アドリブ性が強く楽しい音を出す希美って小笠原部長とフルートとサックスで掛け合ったら案外ノリがばっちり合うんじゃないかという気がします。晴香自身は「うちが言っても聞いてくれるような子やないけどね」と言ってますが元南中が退部したのは晴香の演奏を認めてるからでもあるんですよ*17。この2人って審査対象にされる競技会より演奏会やジャズコンサートみたいな方が本領発揮するのかもしれませんね。

最後に声を大にして言いたいこと。希美の吹部生活はハードモードの連続。心を折られるような経験は何度もありました。それでもフルートを続けている。音楽を辞めるなんて選択肢は最初から持ち合わせちゃいない

希美は音楽が大好きなんです!

 

鎧塚みぞれ 

演奏会で吹くのは『ダフニスとクロエ』。この因縁曲がここで出てくるんだ! とちょっと興奮しました。そして音大でも当然のようにソロをゲット。類稀な才能が大きく花開いています。みぞれの覚醒が起こったのは自由曲リズと青い鳥の第三楽章。これは滝先生からしても想定外の事態でした。

「去年のあの鎧塚さんの演奏を聞いて以来、私もいろいろと考えることが多くて」(滝昇、最終楽章後編p.90)

この感想や当初の演奏バランスを鑑みるに、滝先生って第三楽章の掛け合いについては二人がかみ合いさえすれば十二分に全国トップクラスの演奏になると思っていて、何故かみ合わないのかを深く考えていなかったのかも。二人とも技量はあるんだから音楽的に合わせればいいだけで、根本に人間関係があるとは思いもよらなかったというか。この機微に対する未熟さについては最終楽章にてあすかが指摘しています*18

演奏後に「希美!」と叫びながら駆け寄り、褒められればまさに幸せの絶頂といった様子のみぞれ。変わらないなあと安心するべきなのか心配するべきなのか。ここでの”睫毛に縁取られた両目は、満天の星のように喜びの光に満ちている”という表現、リズのラストで希美に振り向かれたときの表情がグレードアップした感じが思い浮かんでなんだか微笑ましく感じました。

鎧塚みぞれのハッピーエンド

演奏会も大成功に終わり一見順風満帆に見えるみぞれの音大生活。このみぞれの進む先にハッピーエンドがあるのかどうか。そもそもみぞれのハッピーエンドとは一体どういうものなのでしょう? 単純に考えると①社会的には音楽家としての大成、②プライベート的には希美が傍にいること等が挙げられます。

優子や夏紀も言及しているように①に対してプロ奏者として活躍する姿を想像することは容易*19。一方で難解なのが②。一口に傍にいると言ってもその距離感、関係性は。親友? それともいわゆる添い遂げ? これにはみぞれだけでなく希美の感情も問題に。

個人的には傍にいるのは希美が罪悪感*20や負の感情に縛られてならばベストではないと考えてしまうんです*21何故ならば希美が幸せではない状態をみぞれ自身が望んでいないからみぞれはみぞれのハッピーエンドをつかみ、希美は希美のハッピーエンドをつかむ。その先で2人の道が交差することがあれば素敵だな、と思います

「私は、希美が幸せならそれでいい」
(鎧塚みぞれ、第二楽章後編p.305)

最後にこうあって欲しいという願望を1つ。やっぱり希美とみぞれの問題って希美もみぞれも言いたいことを言い合わなかったことに尽きると思うんです。遠慮しすぎにしろ尊重しすぎにしろこれはよろしくありません。がっぷり四つの真正面からぶつかりあって、お互いがお互いをもっと知ってもらいたいです。改めて久石奏の金言を。

「衝突の許されない関係はいびつですよ」
(久石奏、最終楽章後編p.199)

と、いうことで のぞみぞ喧嘩しろ!

 

中川夏紀

希美やみぞれは既に色々書いてきて、本稿では優子についても考えてみました。でも中川夏紀。私この人についてはなにも書けません。これは多分ユーフォで最初にはまったキャラであるということと、「なんなんですかあの人!」と叫ぶしかないくらいどの角度から切ってもイケメンな性格なのが作中から溢れまくっているからだと思います。ですのでここでは夏紀というよりもなかよし川爆発しろについて少しだけ。

ホントの話で語っていた通り大学ではバンドを始めた夏紀。優子がギターボーカルなのはその映える容姿とフロントマン向きな性格を見込んで、そして夏紀がリードギターじゃなくてベースなのはもちろんイケメンだからでしょう。 私の中ではベーシストはイケメンだと決定されております。

基本的なボーカルは優子として、ロック調の曲のときは夏紀が歌うのもありですよね。パワフルな英語で歌い上げられた日にゃ観客のハートわしづかみ間違いなし*22そしてね、絶対にあるんですよ、ツインボーカル曲が! はい勝利。なかよし川大勝利。けいおん! river 』はじまります!!

夏紀に対してはなんだこれはな感想ですけどこれみんな思うことですよね? 南中カルテットの扇の要とも言える夏紀。夏紀さえ大丈夫ならカルテットも大丈夫だという絶対的な安心感。人の幸せを手助けするだけではなく、自分の幸せも忘れずに追い求めて欲しいですね

 

まとめ

難しい、難しいよ武田先生! 考えをまとめるため無理やり言語化しましたがみぞれ演奏会の正しい解釈なんてぶっちゃけ何ひとつ分かりません。それでも色々考えることは面白いです。明日になればここに書いたものと全く違う結論に至ってるかもしれないですけれどもそのときはそのとき。思考実験は楽しいものです。

南中カルテットはそのバランス、関係性も含めてずっと眺めていたいあまりにも魅力的なキャラクターばかり。過去、現在、未来どこでもいいので短編集での出番、活躍を期待します。夏紀と希美、夏紀とみぞれのファーストコンタクトについても是非見たい

最後に、この武田先生のtweetがめっちゃ怖いので心を磨り潰されないように気を強く持ちながらどんとこいと構えて待ちます!

 

2020.12.04追記

上記のtweetは別の作品のようでしたが本日とんでもない爆弾が投下されました。

「中川夏紀視点の南中カルテット”長編小説”」

こいつはとんでもねえぜ・・・。

 

 

*1:希→優→夏もありえますがp.42の差し入れ会話を踏まえればこの順序が自然

*2:実は第二楽章後編p.126にも少し似た場面はあります

*3:楽しく拝見しております

*4:その最たるものがリズと青い鳥かもしれません

*5:「誰が好き好んで嫌いなやつと一緒に行動すると思っとんねん。うちがそんな器用なことできるわけはずないやろ」(2巻p.262)

*6:リズではより強調されている傾向

*7:というかそれ以外を挙げる人の方が珍しそう

*8:例え周りがそれに気付かなかったとしても希美は当時の自分が醜いと思っているので(第二楽章後編p.248)

*9:対みぞれの面では特にその傾向が顕著

*10:さらに言えば希美は過去の自分を醜いと自己嫌悪していますが、他者からはそう醜くは見えていないという面もあるんじゃないかと。みぞれの演奏にぶちのめされてもしっかり立ち上がって完璧に支えた姿が映っているので

*11:夏紀は相手のためになるかどうかで甘さをかけるべきか判断できます。もし希美が後ろ向きであれば希美への視線は違うものになっていたはずなので。私は中川夏紀というキャラに全幅の信頼を置いています

*12:大学の推薦もあっさり取り付けてるし性格不器用なくせに行動器用すぎか!

*13:コンクールに来ている以上結果を求めるのは当然で、希美も府大会では「絶対今年は全国でええ結果出したろな」と元南中の後輩からの激励に答えています。その上で、結果だけに凝り固まらず音楽への姿勢が見えるのが嬉しいです

*14:「やる気のある子だけ集めて大会に挑んでたら、それで結果が銀でも銅でも納得できたはずや」(2巻p.147)

*15:定演での曲目も観客の楽しさ重視

*16:それだけに幕切れが悲しい。南中顧問にも救いを!

*17:「香織先輩とか小笠原さんとかさ、真面目にコツコツ練習してた二年生がBやってんな。それに納得いかんくて三年に文句言ったら、逆に言い返されてしもうた」(2巻p.150)

*18:「だからその分、うちが欠けてた分を補完してた」(最終楽章後編p.307)との弁ですけど個人的には”あすか自らの望む方へ誘導・管理していた”の方がしっくりきます

*19:逆にこれ以外でみぞれの社会的成功がなかなか思いつかない

*20:音大行くと言い出したのは自分ということに結構な罪悪感持っていますが、個人的にはこれに罪の意識持つ必要はない気がします

*21:もちろんそれはそれで物語としての1つの形であり素晴らしいSSも沢山あります。あくまでマルチエンディングの中で私が選ぶなら、というだけの話です

*22:ジャクソン5を歌いだす夏紀、いいですよね(第二楽章前編p.159)