リズを彩るキャラ他

傘木希美を考察することは、鎧塚みぞれを考察することでもあるのだ。ということで希美考察に追加していこうと思いましたが、かなり個人的嗜好が入るので別にしました。

 

リズを彩るキャラ

鎧塚みぞれ

リズと青い鳥はみぞれの成長物語であるとも言われています。ひな鳥がはばたき飛び立つ、まさに主人公です。個人的には報われる主人公よりもその脇にいるキャラに入れ込んでしまう性質ですが、ユーフォの場合みぞれはみぞれで内面ぐちゃぐちゃなんですよね。それでも最後にみぞれの出した結論がとても素敵だと思ったので、その感想ついでの考察です。

 

矛盾する感情

まずリズの入りからして、2年での「たったいま、好きになった(満面の笑顔)」が、3年で「本番なんて、一生来なくていい」へ180度転換してる時点で何があった状態です。さらに原作にはパンフレット事件の際、いわゆるみぞれの心情を表すモノローグとして読者を混乱へと突き落とす一文があります。読んだ人全員が、武田先生これは一体どういうこと?って思わず突っ込んだんじゃないかと。

軽やかな足音。太陽のような明るい笑顔。こちらに手を振っている少女の名は、傘木希美。みぞれの唯一の友達だ。(第二楽章前編p.385)

実際には優子(+リズ梨々花)の努力のかいもあり、みぞれは少しずつ変わり始めます。優子が喜んでくれることが嬉しい。梨々花が慕ってくれることが嬉しい。希美以外に興味を持つという、以前までのみぞれとは全く違った姿を見せています。2年での関西大会金賞&全国進出という奇跡のような偉業を、仲間との共同作業で勝ち取ったという成功体験も大きな役割を果たしたのではないかなと個人的には思います。

それでいて希美に関わる場面では、先の一文と同様に成長が消え失せて元に戻ったかのような描写が端々に見られます。希美だけが唯一の友達、希美が言ったから後輩を大切にする、希美が言ったから他の子も誘う、希美との別れが近づく本番なんて一生来なくていい。この心理状態、非常に危ういです。

リズでも原作でもみぞれの思考はなかなか描かれないので完全に独断と偏見混じりでいくと、みぞれの成長と相反する極端な希美崇拝言動は次のような理由と考えています。

 

心の容量

言うまでもなくみぞれは希美が大好きです。一方で、みぞれの成長によりみぞれの心を希美以外の存在が侵食し始めています(第二楽章後編p.176)。これは久美子の表現ですけど、みぞれ自身も無意識ながらまさに侵食と感じていたのかもしれません。

好きという箱には容量があり、他の好きを入れるとそれまで満たされていた好きがこぼれてしまう。でも希美への想いで満たされていない自分を希美が大切に思ってくれるわけがない。いついなくなるか分からない希美、見放されないためには自分の心を希美で満たしておく必要がある希美が決めたことが、私の決めたこと

別の存在の流入と希美で再び一杯にするための反動が無自覚な矛盾を生み、意識と行動が連動しない状態に陥ったとのではないかと推測します。 

 

音楽が好き

この矛盾が顕著に見られるのが音楽に対してです。みぞれは自分の口では音楽が好きと言いません。2年次には音楽だけが希美と自分を繋ぐものであり、下手になる=見放されるなので練習していると説明しています。それどころか希美がいなくなった理由も吹奏楽であるため、音楽に対する憎悪すら吐き捨てています。自分から希美を奪った音楽、その音楽の流入で自分の心から希美がこぼれ落ちる、認められないし許せません

「馬鹿みたい。こんなものにみんな夢中になるなんて。いくらやったって、楽しいことなんてひとつもないのに。何も残らないのに。苦しい気持ち、ばっかりなのに」(2巻p.259)

一方で直後の優子のカチコミでは、府大会金賞が実はうれしかったことも告白しています。そもそもあの練習量、本当に音楽が好きじゃない人間が出来ることなのか?ということも考えると、無意識下に押し込めているだけで心の奥底では音楽が好きという感情が灯っていると思われます(特に2年でのコンクール以後は)。

希美が自分の全てという意識”と”音楽が好きという無意識”、対立が表面化したのが原作における進路選択です。自縄自縛に陥った希美は直接伝えることはできないものの、一般大学のオープンキャンパスに参加、予備校に通うなどを隠しもせず、”音大以外の進路へ進むこと”をほのめかします。しかし、みぞれは音大以外の志望校には見向きもしません。まさに矛盾です。そして久美子がその矛盾について考えましょうと諭します。

「音楽が好き。だから、目をそらしていたかった」が希美の複雑な想いであるならば、みぞれは「音楽が好き。だけど、目をそらしていたかった」になるのかもしれません。

 

特別な人がくれた特別なもの

新山先生から与えられた新たな視点、相手の立場になって考えるということ。この視点によりみぞれは音楽面だけでなく人間的にも殻を破ります。青い鳥の気持ちを考えることは、愛の形はひとつではないこと、傍にいることだけが愛じゃない*1という気付きでもあります。

希美考察でも触れたようにリズと原作では大好きのハグ周辺の展開が異なりますが、最後の希美からの言葉は「みぞれのオーボエが好き」ということです。これは奇しくも2年での和解の際にかけた言葉と同じです。しかし、同じ言葉でも希美の込めた想いが異なるように、みぞれの受け取り方も全く異なっていたのではないでしょうか。

そして大会後に、みぞれは自分の出した結論を久美子に伝えます。このみぞれの出した結論、最高だと思ってます*2

「私、頑張ろうと思う」

「音大受験をですか?」

「それだけじゃなくて、音楽を。希美がいなくても、私、オーボエを続ける。音楽は、希美が私にくれたものだから」(第二楽章後編p.361)

意識と無意識、希美と音楽の対立関係。視野が広がったみぞれには、2つの好きを対立させることなく両方ともを受け入れることが出来るようになります。それだけではなく、音楽が好きは希美が好きに包含される特別な人がくれた特別なもの、音楽もみぞれの宝物のひとつに昇華されたのではないかと思います=音楽とのjoint

ただでさえ息をするように練習していたみぞれ、この認識を得てどうなってしまうのか想像もつきません。マリオ的に言えば、もはや演奏面では永久スター状態になるんじゃないかとすら感じます。この先どこまでもはばたいていけることでしょう。

 

ちょっと能天気な考察かも知れないですが、それはそれでいいんじゃないかと思っています。だって、物語はハッピーエンドがいいよ!って希美も言ってますしね。その後のみぞれについてはホントの話のところで少し述べます。

 

新山聡美

リズのキーパーソン。みぞれにのみ音大パンフを渡す、希美の相談はそっけないという、悪魔的所業で心を破壊しに来る新山先生は希美好きからすると超危険人物です。また、リズでは木管担当なのにみぞれを指導している場面しかでてきません。ただ、これは新山先生の対応を通して天才とそうでない人間の対比を強調したかった映画的描写であり、ある意味損な役回りを与えられたと言えます(実際は場面外で希美達にもしっかり指導していると思われます)。

それにしてもこの新山先生、冷静に指導面を見ると物凄い敏腕ですよね。みぞれの相談に対し、①同調から入り警戒を解く、②実感しないと感情をこめて吹けないタイプと的確に分析、③実感できる視点への変更を提案、④結論を与えるのではなく教え子が結論を出すまで待つ。この優秀さ、滝先生が呼んでくるわけですよ

才能の発掘、進路紹介、新たな視点の付与。みぞれにとって特別な人は永遠に希美であることは変わらないとしても、人生の師と言えるのは新山先生になるんじゃないでしょうか(新山先生がみぞれに共通する部分を持っていたことも含めて)。

余談ですが、Twitterとかの新山先生考察を見ていて物凄い面白いなと思ったのは”千尋先輩オーボエ”です*3。いやこれ考え出すとやばいですね、そりゃ仕方ないね新山先生となるしかない。最初に言い出した人天才です*4。原作で明らかにされることがあるのかないのか、気長に待ちたいところです。

 

 

北宇治高校吹奏楽部のホントの話

短編集2巻として出版されたこの巻、素晴らしい話ばっかりです。特に希美が好きな人間にはたまりません。具体的描写はなしでリズ、大会後としての感想を少しだけ。

 

傘木希美

希美の今後を語る上で外せない「真昼のイルミネーション」。希美の高潔さ、前向きな姿勢、友人思いなところ、余すところなく詰め込まれています。この話を読めば、希美の未来に不安を抱えていた人も希美はこれからも大丈夫だと安心できると思います。

そして「アンサンブルコンサート」。流石は部長経験者だなという気配りや本当に音楽が好きなんだなという気持ちが伝わってきます。リズでの挫折を経ようが(むしろ経たからこそ?)揺るがない音楽が好きだという姿勢、読んでいて嬉しくなりました。

これまでハードモードな部分が描かれることの多かった希美。それにもめげずむしろ糧にしてしっかりと前へ進んでいきます。その先には間違いなく希美のハッピーエンドがあるでしょう。

ピークはこれから更新されるから大丈夫

(傘木希美、短編2巻p.141)

 

鎧塚みぞれ

みぞれが出てくるのは卒業式の朝、登校場面の「飛び立つ君の背を見上げる」の他には「アンサンブルコンサート」のほんの一部だけです。それでもその少しの描写だけで成長がありありと感じられます。自分の道を自分の意志で選択できること、希美に対して行動を起こせること、希美以外の存在を受け入れ感謝を示せること。みぞれはとっくにひな鳥ではありません、しっかりと飛び立てる鳥です。

希美に対しても変に自分を卑下することなく、横に並んで歩めるようになっています。会話が途切れ沈黙が訪れたときに不安や不快がない関係、お互い本音を言い合い対等な立場になったからこそだと思います。”添い遂げる”という表現に当たるかどうかはともかくとして、こういう関係はとても貴重であり少なくとも”一生モノ”となるのでは、と感じます。今後ののぞみぞ関係って結構カッコいい感じになるんじゃないかとか勝手に考えていたりします。

 

音大というゴール

ユーフォ中で麗奈により最初から示されている高校生活の1つのゴール、それが音大に行くことです。立華編、第二楽章、リズでも進路選択のゴールとして音大というものが与えられました。音楽をテーマとしている物語では必然とも言えます。

一方で、”音大だけがゴールではない”ということも徐々に示されています。特に希美は一度社会人楽団に所属し外の世界を見ているため、希美を通して音大以外の選択肢というものが読者に、そして久美子に投げかけられています。

高校生活の締めくくりとして逃れられない進路選択問題。果たして久美子は音大を目指すのか。どの進路を選ぶにせよどういう意思でそれを選択するのか。コンクールとともに久美子3年編で大きな柱となりそうなこの問題、麗奈との関係も含めどのような着地点となるのかとても楽しみです。

 

 

*1:たまゆら~卒業写真~の主題歌から表現を拝借

*2:リズではここから「私も、オーボエ続ける」が採用され、この会話周りで様々な解釈を生まれているので読んでいて楽しいです(支えるのはソロだけか否か、続けるに対する回答が「うん」だからこれからも支えるってこと?等々)

*3:千尋先輩については短編2巻ホントの話を参照

*4:私が知ったのは怜-Toki-のめきめき先生のTwitterでの考察でした(私は咲-saki-では末原先輩派です)