傘木希美考察~北宇治3年編~

吹部復帰までで述べたように、リズと青い鳥を迎えるまでは2人は本当の意味では出会っていないと思っています。希美はみぞれをよく分かっていないけれども理解しようという興味を示さず、みぞれも希美に自身を理解してもらうための行動をしません。

リズではこの関係が、ソロの掛け合いという音楽的衝突、ついに行動するみぞれ、両者の決断により大きく変化する様子が描かれます。

 

傘木希美パラレルワールド

というので時系列的に考えてきたわけですが、当たり前だけど原作は原作、TV版はTV版、リズはリズなんですよね。全てが繋がっているわけではないため、はっきり言って前段の過去考察はリズ自体にはあまり意味がなかったりします。つまり、原作、TV版、リズと三者三様の傘木希美が存在します。そしてどれを見たかで同じキャラでも人によって受ける印象が異なります。

特にリズはユーフォの冠を外した独立作品としているため、映画の尺に合わせてキャラを単純化し分かりやすくしていると感じました*1。ある部分は足されたり強調され、ある部分は引かれたりしています。

リズの画面に描き切れなかったけれども下地にされている部分、リズでは参考とされていない部分、原作との切り分けはどこに境界があるのか判断するのは難しいところです。そして一度見て(読んで)しまえば全てを切り離せなくなるため、本稿は全作が混じり合った考察感想です

繰返し視聴でもはや理屈で見てしまっている部分があるので、願わくばまっさらな感情で見た初回をもう一度体験したいものです・・・。

 

 

傘木希美と鎧塚みぞれ

希美の行動原理は音楽、みぞれの行動原理は希美(ずっと一緒にいたい、嫌われたくない)が主です。そんななかで3年になり卒業が視界に入ります。すなわち、希美的には将来の選択を、みぞれ的には希美との別離の覚悟を決めないといけないタイムリミットが近づいてきます。

 

特別であるということ

誰かが誰かにとって特別であるということ、これは当事者かそうでないかで抱く感情が完全に異なります。他人からすると自分と希美でみぞれの反応が違う、みぞれにとって希美は特別なんだな、で終わりです(特別であることに理由を求めません)。しかし、特別と思われる側はそうなりません。これは優子との立場の違いで鮮明に見られます。

なにしろ希美はみぞれに対して特別なことをしていません、部に誘っただけです。特別と思われる理由がないのに特別に思われていると何の疑いもなく受け入れられる人間がいるでしょうか。ユーフォ中で最も特別と周りから評されている田中あすかですら、香織先輩に特別だと真正面から告げられても納得していません*2(短編2巻p.48)。

香織先輩と違ってみぞれは希美に特別であると告げていなかった上、前述したように距離を詰める行動を起こさなかったこともあり、希美は自分がみぞれにとって特別であるとは思っていない、もしくは周りからそう言われても納得できない心理と思われます。原作終盤では、みぞれがついに特別を伝えたときに希美がこのことに言及しています。

「なんでそこまで言ってくれんるかわからんわ。うち、自分で言うのもなんやけど、みぞれにそこまで特別なことしてへんやん」(第二楽章後編p.303)

 

演奏の実力

鎧塚みぞれ

みぞれの演奏技術は麗奈を上回る作中最強クラスです。原作公式twitterが天才と紹介するくらいです*3。しかも音大卒業してどこかのプロになれればゴールというだけのただの天才ではありません(これも十分すぎるほど凄いことなのですが)。作中で海外の楽団に所属することまで示唆されているような飛び抜けた天才です(短編1巻p.171)。

これは異常なまでの努力の賜物でもあり、希美をして息をするように練習をすると言わしめています。この努力は、みぞれ曰く「オーボエだけが自分と希美を繋ぐもの」であり、希美に見捨てられないためにしているものですが、みぞれは本当に希美のためだけオーボエを続けているのかということも主に進路選択部分に関わってきますみぞれ考察で記載

周囲からの演奏評価としては覚醒後はもはや無双状態で、リズではあの麗奈も圧倒されたと認め、プロパーカッショニストのはしもっちゃんも口あんぐりです*4。原作だと新山先生も優雅さの仮面を思わず脱ぎ捨てて大興奮で壇上に駆け上がります。この巨大すぎる才能、そこらの凡人だと対抗しようとかいう考えすら出てこずに白旗です。

 

傘木希美

リズでは希美の実力を示す描写はあまり出てきません。夏紀の2人ともエースって感じでカッコいいくらいでしょうか。また、フルートパートの雑談が頻繁に出てくるため、練習を真面目にしていないと勘違いされることがあります。他のキャラに注目すると分かりますが、フルートの雑談はランチ休憩や全体練習後の帰宅前など練習以外の時間です。逆にフルート光場面や新山先生がパンフレットを渡している場面など、みぞれが練習していない時間にフルートが練習をしている場面もあります。

リズ中ではそもそも練習の描写自体が全体でも他パートでもほとんどなく、希美が周りに慕われていることを強調するために雑談部分をピックアップしたのでしょう。朝早く来ていることも含め、単にON-OFFの切り替えがしっかりしているのがフルートパートというのが実情かと推測されます。

さて、一方の原作中に示される希美の実力ですが、描写、作中キャラの評価ともにかなり高いです。あのあすかが希美が上手いから引き止めようとしたこと、あの滝先生がオーボエとフルートの掛け合い曲を選んだことだけでも実力の高さは分かりますが、復帰前の描写では以下があります。しかもTV版では演奏していたのが南中韃靼人の踊りだったのに対し、原作では北宇治の自由曲です。滝先生の指導を受けておらず、楽譜コピーをもらっただけの状態で久美子が瞬時に判定してしまいます

楽しくて美しい、澄んだ音色。いま、ここでそれが完璧に再現されている。その音は北宇治高校のソリストが奏でる音楽とはまったく異なっていた。技術的なことを考えても、こちらの方が上手い。(2巻p.107) 

また、前述のようにみぞれは作中最強の天才で覚醒前でも既に高校トップレベです。そして覚醒前であれば相性は最悪ながらも希美とみぞれの演奏は優劣つけがたい評価を受けています(覚醒後は希美に限らず誰も敵いません)。まぎれもなく希美も音楽の才能を持っている側です。才能があるからこそみぞれの凄さを誰よりも理解し打ちのめされるのです。

希美の演奏は、芯の通った凛とした音をしていた。抑揚のつけられた演奏は感情的で、奏でられる音の一つひとつから強いエネルギーを感じた。その演奏を聞いたあとだと、みぞれの奏でるオーボエの旋律はどこか物足りない。~中略~ みぞれの音だけを切り離して聞いてみれば、演奏そのものはかなりハイクオリティーに仕上がっていると思う。ただ、希美のソロと組み合わさった際に違和感を生じさせるだけで。(第二楽章後編p.83-84)

「君ら二人はなー、足して二で割るくらいがちょうどええと思うねん。いっぺん二人三脚とかしてみたらどう?案外うまくいくかもしれんで」

「私は二人ならきっとなんとかなると思っているの。どちらの演奏も高校生とは思えないほど素晴らしいもの」(橋本真博&新山聡美、第二楽章後編p.193-194)

「鎧塚先輩も傘木先輩も、優秀だからこそより多くの結果を期待されるのでしょうね。個人的にはいまのソロでもなんら問題ない気もしますが」(久石奏、第二楽章後編p.196)

 

3年生:自由曲リズと青い鳥

負の感情の芽生え 

退部時の考察で書いたように、嫉妬(羨望)は賞賛の裏返しです。そして2年の復帰時でもみぞれのオーボエに対して純粋に称賛の側にいます。これが負の感情を持つことで裏返る過程が描かれているのがリズと青い鳥です。

何故称賛が嫉妬へと裏返ったのか、そのきっかけは希美自身がみぞれとの比較対象となったこと、だと思われます。すなわち、①自由曲ソロの掛け合いでみぞれのオーボエと直接的にぶつかり合う状況となったこと②みぞれだけがプロから音大進学を勧められたこと、です。そして③みぞれが音楽をそれほど愛していない態度をとること、が希美に大きな負の感情を抱かせます。

フルートとオーボエの掛け合いを円滑にする解決策は、希美とみぞれの両者が本音で意見交換することです。しかし実際に希美が行った行動はみぞれに頑張れ、頑張ろうと声をかけるのみで、本質に向き合うのを避けています。みぞれだけでなく希美も行動を起こさないのが自由曲最大の問題となっています。

 

①自由曲ソロでの掛け合い

自由曲リズと青い鳥、これはオーボエとフルートの掛け合いが最も重要な曲と言われています。まさに希美とみぞれが真正面から”音楽で”向き合う、比較されるという立場に否が応でも立たされることになります。

さらに希美はみぞれのオーボエが感情爆発だということを知っています。それが自分との掛け合いになると出てこない、明らかに不自然です。むしろ自分がいない期間の無感情オーボエを聞いていないため、その違和感は麗奈以上に感じていたでしょう。そして麗奈も思いつかなかったように、原因は他者が推測するのは難しいものでした。フルートにオーボエが答えてくれない、答えてもらおうと感情的に問いかける、より合わなくなるの悪循環が始まります。

そして感情オーボエでないのは、「希美とは一緒に吹きたくない」「希美相手では本気を出すことが出来ない」とみぞれが考えているのではないかと推測したと思われます(後者は麗奈とよく似た推測ですね)。みぞれに対する負の感情が広がりはじめます

  

②進路についての悩み

希美は退部期間に社会人楽団に所属していたため、音楽を続けるのにはプロ以外の選択肢があること、音楽が好きとプロがイコールではないことを知っています。そして音大がゴールではないということも理解しています。音大に入るからにはプロを目指す道を選ぶことという確固とした考えを持っています。だからこそ進路で悩んでいます。

ただこれは原作の話で、リズではかなり違う設定になっているかもしれません。山田監督のインタビューだと退部期間は音楽をやめている、音大へ行かなければ音楽はやらない、というようにも読めるからです。原作ではどの大学に行ったかまで描写されていますが、リズでは大会すら始まらずに終わります。「途中から途中の物語でありたい」という監督の思いが、”結果”を示さないキャラ設定に表れたのかもしれません。

-希美は大学は音楽科を諦めて普通科に行ったのですか?(要約)

「今の彼女はそう思っているでしょうけど、やっぱり音楽をやりたいと思うかもしれないですね。希美は過去にも吹奏楽部を辞めて、やっぱり音楽をやりたいと戻ってきましたからね。だからこの子はなかなか信用がならない子です(笑)。その時その時の気持ちに準ずるので。だから、希美はこの進路を選びましたと決めちゃダメだなと思ったんです。この子の性格を考えたら決断が変わる可能性もあるし、もっといい答えを見つける可能性があると思うので。なので今の彼女はこれです、という見せ方しかしてないです」(Spoon, No.124, p.54)

どちらにせよ進路について悩んでいるわけですが、そこにタイミング悪く?新山先生がみぞれにのみ音大の話を持ち掛けます。しかし自分にはその話が来ていない、新山先生にその意図があろうとなかろうと、希美からすればみぞれより下であると比較され、線引きされたわけです。大ダメージです

第二楽章およびリズにおける希美最大の過ちは、みぞれが新山先生から音大パンフレット渡されたと聞き「私ここ受けようかな」と”対抗心だけで反射的に言ってしまった”ことです。ここはリズの中でも大好きのハグと並んで象徴的な場面です。そして上記の山田監督インタビューで示されるリズにおける希美の性格は、ここを基準に構築されたのではないかという気がします

 

③音楽が好き

希美は音楽が好きです。一方、みぞれが音大へ行く理由は、”みぞれの説明上は”「希美が受けるなら、私も」です。これは希美にとってあまりにもキツイです。自分より音楽の才能が上だと評価されている人間が、音楽は二の次だと言っているわけです(それも音楽が好きと公言している相手に対して)。この状態で負の感情が芽生えない人間がいるでしょうか。一歩間違えれば当てつけと取られかねないかなり不味い発言です。

もちろんみぞれに悪気は全くなく、100%希美への愛情から来た行動です。そう、みぞれが希美への想いを行動で示したのです。しかし悲しいかな、これまたタイミングとしては最悪で、完全にボタンの掛け違いに終わります。みぞれ渾身の行動が裏目に出て事態は悪化します。

 

①問いかけに応じないオーボエに対する不安、②才能格付けによるダメージ、③すれ違う思いによる追い打ち。逃れられない負の感情により希美が動けなくなります。

希美が負の感情を相手にぶつける人間であれば、結果がどうなるにせよ直接コミュニケーションを取ることになるため早期に決着していたことでしょう。ただ、希美は負の感情で相手を傷つけることを嫌う人間でした*5。それゆえ問題は長期化します。

 

音楽室の攻防

原作では希美の強がりの目立つこの場面、リズでは進路責任の攻防がより強調されているように見えて面白かったです。

希美にとって思わず音大を受けると言ったのは軽率な失言ですが、一方のみぞれにとっては天啓でした。卒業という別離から逃れる手段がいきなり目の前に降ってきたわけです。乗るしかないこのビッグウェーブにって奴です。

さて、本来自分の進路は自分で決めるべきで他人に乗っかるものではありません。音楽のプロという狭き門、茨の道を目指すかどうかという選択では特にそうです。あすか先輩ならこの正論をズバッと突きつけそうですが、希美には自分もみぞれのパンフレットに乗った弱みがあるため強く言えません。そこで他者を交えた探りを入れます。

南中カルテット勢揃いの中、唐突に希美が思いをこぼします「みぞれ音大受けるんだよ」。みぞれ単独の話としての持ち出し、音大を受けるのはみぞれ自身の選択というみぞれへの牽制と周囲への連絡、わたしたちとは言いません。人生の岐路ともいえる選択を他者に委ねるのは明らかに無責任です。みぞれにも周囲にもそのことに気が付いてほしいし、失言からの間違った関係を正常化させたいという思いの発露です。希美は自分を理由に進路を決められるのは辛いのです(特に上記②③の状態ならそうなります)。

しかしこの牽制はみぞれに理解されることはなく、また希美がいなくなってしまうと感じさせただけでした。それゆえみぞれは離れたくない意思を再び伝えます「希美が受けるから、私も」。みぞれは希美を理由に進路を決めたいのです。完全なすれ違いです。

端的に書けば「自らの進路は自らの責任で決定すべき」「だが断る」の攻防です。これはダメだと判断した希美は「みぞれなりのジョークでしょ」と交わして撤退します。もちろん単なる冗談だと考えておらず、複雑な感情が渦巻いているでしょう。音楽面では希美を嫌うかのごとく無感情なのに現実世界では離れたくない風を出してくる、ますますみぞれが分からなくなっていきます。

希美は負の感情の芽生えにより本質的には動けないものの、現実世界のみぞれを見てとりあえず嫌われてはいないはずとの確認行動はします。すなわち、あがた祭りやプールを自分と行きたいかの誘いです。ところが練習が進みますます掛け合いに違和感が深まる中、みぞれがいつもと違う行動に出ます「他の子、誘っていい?」。いよいよ現実世界でも嫌われたかと焦ります

 

みぞれと梨々花の共演

そんな状況でみぞれと梨々花の掛け合いが聞こえてきます。このときのオーボエは感情のこもったものでした。繰り返しですが、希美はみぞれのオーボエが感情爆発だということを知っています。自分とでは出てこない感情オーボエが他人とだと発揮されていることを聞かされる、音楽優先主義希美からすると完全に殴られたようなもんです

みぞれ梨々花の共演はリズオリジナルでその後の相談相手は夏紀、原作ではプール中で相談相手は久美子と違いはあるものの、似た内容を相談しています。ソロの掛け合いの解決は本音で話し合うこととはいえ、「あなたは私のことを嫌っているのか?」と本人に聞くのは難しいですよね。

「普通に仲良くなりたいと思ってるだけなんやけどさ、なーんか上手くいかへんねんなぁ。こう、あんま上手く言えへんけど。優子とか久美子ちゃんとは普通に接しているわりに、うち相手やとよそよそしいというか・・・なんか、距離を感じる

ソロもうまく噛み合わへんしさ。みぞれって、ほんまはうちのこと嫌いなんちゃうかって最近は思ってて---」(第二楽章後編p.131)

 

倉庫でのトリオ談義

原作では麗奈への独占欲を吐露した久美子のためだけに吹くトランペットソロ in 大吉山を、希美みぞれへ聞かせるためのペット&ユーフォの掛け合いへアレンジしています。この久美子の独占欲、リズでは希美に取り入れられてます。リズでは原作の他キャラの設定をちょくちょく取り入れてるところがあって、比較するのも面白いです。

さて、「じゃあ元気でなって感じの強気のリズ」を聞いた希美は、改めて進路についての悩みを優子&夏紀へ打ち明けます。しかしみぞれの保護者である優子がさえぎります「それ、みぞれには話したの?」「話してないよ、なんで?」。

優子は思い入れのある相手のための行動をするときは暴走気味で、アニメだとそれがより強調される傾向です*6。相談を持ち掛けられているのに、目の前の相談相手よりもその場にいない人間への対応を優先すべきだといきなり告げるわけです(相談に乗った後ならともかく)。この場面の優子は徹頭徹尾みぞれ優先の感情をぶつけるため、相談している希美としてはとても辛いです。優子の保護者っぷりはリズ後の原作でも再び発揮されますが、過保護すぎるゆえ逆にみぞれを理解できていないところもあります(短編2巻p233-234)。

実際のところ希美は相手から答えが欲しいのではなく、自分の失言から始まった気持ちを整理して次へ進むため、第3者にただ聞いてもらいたいのです。当事者であり進路選択の理由を希美が行くからと説明しているみぞれ相手ではこれは出来ません。

 

覚醒するオーボエ

化け物演奏タイムです。ここは言葉で語るだけ無駄ですよね、圧巻です。希美感情を通して演出される画面とかとにかく色々素晴らしすぎます。

このときのオーボエは青い鳥の愛のあり方を理解したものであるため、当然感情オーボエとしてそれが発揮されます。すなわち無感情オーボエの原因として希美が推測していたもののうち、”嫌われている”が消えます。となると残るは”本気を出していなかった”です。結局麗奈と同じ側の推測が残ることになります(みぞれの真意は違いますが)。

 

大好きのハグ ・完璧に支える宣言

これに関しては既に多くの人が考察してます。あと、ここのリズでの感情の動きは台本に詳述されそうです。ということで別の角度から。

原作とリズでは、支える宣言と大好きのハグの時系列、希美がハグに応じるかみぞれが強引に抱きしめに行くかが違います。これは山田監督ののぞみぞ添い遂げて欲しい思いの表れではないかと感じます(武田先生との対談参照)。

 原作:オーボエ覚醒→完璧に支える宣言→大好きのハグ(希美がハグに応じる)

 リズ:オーボエ覚醒→大好きのハグ(みぞれが抱きしめに行く)→完璧に支える宣言

原作だと覚醒したオーボエを聞いた後、希美は久美子に心情を吐露し、慰めも必要とせず一人で立ち上がります。最高に希美が美しいシーンです。さらに完璧に支える宣言後の練習では滝先生、橋本先生もご満悦の演奏を披露します

希美は悩み、打ちのめされても、彼我の差を認め、その上で対抗しようと誰の手も借りずに立ち上がる精神力を持った人間です。ハードモード人生を歩んでいるせいか高校生離れしてます。また、みぞれも「気持ち悪い。こんなふうに友達に執着するなんて」と自己分析したりと、我を通すだけのキャラではありません*7

「じゃあさぁ、もう足を引っ張るわけにはいかんやん。みぞれのソロを完璧に支える。それだけが、うちにできるあの子への唯一の抵抗やねん。好きとか嫌いとか、そんなんは関係ない。ソロだけが、うちがあの子と対等でいられるたったひとつの方法やねんから。もう、あんな醜態はさらさへん。うちは、自分の与えられた役割を完璧にやり切る」(第二楽章後編p.250)

しかし”みぞれ(主役)と希美”に焦点を絞って構成している映画で希美が一人で再起するとクライマックスが訪れません。やはり希美が立ち上がる場面にはみぞれがいて欲しいです。また、一途な想いの発露としてみぞれが抱きしめに行く大好きのハグは素晴らしい見せ場になっています。そして大好きのハグを経て希美は再起します。のぞみぞ添い遂げて欲しいの願いをギュッと詰めこんだのが大好きのハグの場面と思いました。その後の希美のみぞれ勧誘回想なんて完全なる傘木お前案件でハッピーエンドの予感がビシバシ来ます。

山田監督は「詰将棋をしているような感覚(Spoon, No.124, p.48)」でリズを構築していったことを述べていますが、この回想シーンだけはつべこべ言わずにハッピーエンドになれ!といった感情があふれたシーンではと思ってます。私もそうでしたが大部分の観客がここで「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」ってなったんじゃないでしょうかw

 

ハッピーアイスクリーム

大好きのハグでみぞれが希美への想いをぶつけ、希美もみぞれの内面を知ることとなりました。みぞれが行動し、希美が理解しますようやく2人が本当の意味で出会ったんだと思います。

そこから先の2人の関係がどうなるかは誰も分かりません。それでも、すれ違い合う表面上の友達から不器用ながらも一歩前進したことは確かです。この関係にハッピーエンドの未来の1つを垣間見せてくれたのがリズと青い鳥ではないか*8と思っています。

さて、リズと青い鳥ラストの台詞、観客には聞こえないし口元も見えません。色々な推測がなされていますが皆さん何派でしょうか?私は「おごるよ!」派です*9ハッピーアイスクリーム

 

 

kasakin.hatenablog.com

 

*1:特にSpoonの山田監督インタビューで希美の退団・復帰に関するところ等が顕著です、後述

*2:これは特別であるから傍にいてくれるのかという寂しさ混じりでもありますが

*3:麗奈の場合は北宇治吹部トランペットのエース

*4:オーボエ奏者の方によると”化け物じみた演奏”をリクエストされたとか

*5:短編2巻「真昼のイルミネーション」に詳しいです

*6:TV1期の八百長依頼はいくらなんでも悪者にしすぎだと思いましたが

*7:前段に書いた「私誘われるのを待ってばっかりだった。いつもそう。見てるだけ」もこれに当たります

*8:山田監督は「小説で描かれていたことを自分の解釈でねじまげないことが、監督である私の責任」とも述べているように、完全なハッピーエンドではなく、あくまで可能性を見せれくれたのかな、と

*9:なお、台本によると希美はハッピーアイスクリームの意味を知りません。その上でおごるよが出るのも素敵な偶然で1つの説としてありと思ってます。台本でも何を言ったかの答えは明かされませんでしたが、こういうのは明かされないのがいいんでしょうねー